第81号 法政大学工学部同窓会報 5/10(2010年10月26日) 印刷

第81号 法政大学工学部同窓会報を10回に渡り,毎週火曜日に公開していきます.

 

昭和37(1962)年 鳥取県境港市生まれ 47歳
昭和60(1985)年 土木工学科卒、川田工業株式会社 電算センターに就職(現:川田テクノシステム株式会社)
平成 3(1991)年 鳥取県境港市役所奉職
平成22(2010)年 鳥取大学大学院工学研究科博士後期課程修了、現在、境港市役所建設部に勤務の傍ら鳥取大学持続的過疎社会形成研究プロジェクトメンバーとして持続的社会基盤経営に関する研究活動を継続中。

平成21年度 土木学会賞(論文賞)受賞

 法政大学時代
 入学した昭和56年(1981年)当時、土木工学科は小金井キャンパスの一角にあり、都内にありながら武蔵野の自然に囲まれ、地方から上京した私にとっては、なにかほっとさせられた印象があったように思います。
 大学時代の私は、工体連サッカー部に所属し、3年次からは工体連本部役員として企画・渉外部門を担当させていただきました。研究室は山門明雄名誉教授の土質研究室に属し、当時、まだ走りであったパソコンによるシステム開発にチャレンジすることとなったのですが、パソコンはもとより電子計算機演習の単位を落とした私にとっては、まさに苦悩の日々でありました。しかし、あれほど苦手であったコンピュ-タ解析に序々に興味が増し、将来はコンピュータを利用した土木設計の仕事につきたいと考えるまでになっていました。
 大学生活は、日々のサッカー部の練習と工体連本部の仕事、そして苦悩に満ちた卒論と4年間ある意味充実した日々とは言え、時間に追われ、あっという間に過ぎ去ったように思います。しかし、この間に培われた体力と精神力、加えて学友ならびにサッカー部の諸先輩方、後輩たちとの絆は、何にも換えがたいものとなり、私の中で今日も生き続けている最高の財産であり、また原動力になっております。
故郷の市役所に奉職
 30歳を迎えるのを期に故郷である鳥取県境港市にUターンし、市役所に奉職、発注者という立場から土木の仕事に携わることとなります。
 行政職に転じてから今日までの間、土木分野における社会基盤施設整備計画や事業側面からの評価などの業務に携わり経験を重ねて来たものの、地域の実情に応じて、これまでの社会基盤整備のあり方と実態に関して総括し、今後、将来における社会基盤整備のあり方について考え方を新たに構築しなければならないと感じ、気づけば40歳を越えておりましたが、一念発起しました。
40歳を越えてからの大学院受験
 社会人選抜入試で受験可能で希望する講座が地元鳥取大学大学院工学研究科に開設されていることを知り、また、県内でもあり職場の許可が頂けけたことから、同大学院を志望校と定めました。
 思いを固めてから受験に至るまでは、受験準備期間に約3年間を費やしました。この3年間の受験準備期間において出願資格認定審査に合格し、博士後期課程への受験資格を取得しました。
 研究テーマは「人口減少高齢化社会における社会基盤施設の持続的経営」と題し、具体的な研究対象の社会基盤施設として、私自身、実務の経験もあり、住民生活に密着し、全ての住民が利用対象となる下水道事業を選定しました。
 大学院での学習並びに研究は、限られた日数でかつ、通学に片道2時間(往復4時間)を要したことから、登校する1日1日が貴重な時間であり、学生時代とは異なり、学習することに期待感があり、時間が許す限り、選択科目や単位に関係は関係なく、研究に際し必要と考えた財政学、地方自治法、自治体経営論などの文科系科目も聴講するようにしました。
学位授与と土木学会賞受賞
 これら基礎および応用科目の学習と並行する形で、研究テーマに向けた学術論文の作成を行い、土木学会を初めとする関係学術機関への論文投稿や発表活動を経て、最終的に学位論文「人口減少高齢化社会における小規模自治体の持続可能な下水道事業経営に関する研究」が完成、入学から4年後の平成22年3月に同課程を修了し、学位(工学博士)を授与いただきました。
 学位論文における主論文「公共財の供給を含む一般会計を考慮した人口減少高齢化社会における下水道事業経営」が、平成21年度第46回土木学会環境工学委員会環境工学フォーラム「論文賞」並びに平成21年度土木学会賞「論文賞」を受賞しました。
 大学院受験を決めた平成15年から約7年間、毎日が慌しい日々ではありましたが、非常に充実した時間となりました。振り返りますと、日々の勤務と生活の中で、どのように時間をつくったのか自分でも不思議なくらいですが、大学院での研究をはじめるに当り、職場の上司に1つのアドバイスをいただきました。「社会人と研究を両立する秘訣の1つとして、どちらも今以上にがんばること、どちらかをおろそかにすれば、両方ともに実のないものになる。」それは、実践して見てよくわかりました。両方平等にがんばることで、自然と自分自身に言い訳をすることがなかったように思います。また、そのための時間のやり繰りやスケジュール管理能力は、今回の研究活動で習得した副産物となりました。
 この変化の時代を迎え、大学を卒業し、既に社会人の方でも、今一度学習したいという人やさらに専門性を高めたいという人は、数多くおられると思います。私もそうであったように、学習への思いはあっても、その第1歩を踏み出すことが出来ない状況にあるのではないでしょうか。目標をしっかりと定め、計画性を持って準備すれば決して不可能ではないと思います。そして、必ず何か1つでも新たなものを習得するという強い意思さえあれば、ゴールは必ず見えてくると思いますので、僭越ではございますが、心からエールをお送りしたいと思います。


土木学会の論文評価
 
本論文は我が国がこれまで経験したことがない人口減少、高齢化が進む中で、下水道事業を長期的視点で持続的に推進していくための検討手法を提案しており、これからの時代の要請にこたえる有用性の高いものであり、この分野の学術研究の発展に貢献するものと判断され、土木学会論文賞にふさわしいと認められた。
(土木学会誌より)