第79号 法政大学工学部同窓会報(2/5)(2009年10月19日) 印刷



環境問題の先端化学『根本はチャレンジとアイデア』
生命科学部 環境応用化学科  西海 英雄教授
http://nishilab.k.hosei.ac.jp/

社会情勢と環境応用化学
 戦後、日本の復興を支えてきた産業の中で、石油を中心とした重化学工業は見逃せません。しかし、昭和48年のオイルショックで経済は落ち込みました。その後は、自動車産業~IT社会と息を吹き返してきましたが、また、ここのところで行き詰まってしまいました。今は、バイオや環境工学が非常に重要視され、化学の重要性が再度見直される状況にあると思います。
~持続可能な環境科学~
 今の化学は、グリーンサステイナブルケミストリー(GSC)『持続可能な社会のための環境共生化学』が潮流となっています。
 人間にとって環境への影響を最小限にし、経済的な効率を上げる(グリーンケミストリー)と共に、持続性を考慮し次世代へ継承する(サスティナブル)ことを意味します。
 化学はモノです。原料があり、原料からそのモノを作ることで炭酸ガスが発生します。また、出来上がったモノは純品ではなく、普通は混合物なので、精製しなければなりません。その精製の過程で、またCO2などを大量に廃棄してしまいます。それをどう減らしていくのか…。いかにして省エネ型のものを作るか…。それを如何に持続するか・・・・。それが研究の基本となっています。そしてこれからの産業を支えていくものだと考えています。
ゼロエミッション
 自然界に排出物を出さないことを『ゼロエミッション』と言います。フロンに対して私どものゼロエミッションの取り組みは次のように考えます。
 フロンは自然界に悪影響を及ぼすことが二つあります。一つは御存知の通りオゾン層を破壊する第一世代のフロンでこれは塩素を含んでいて、製造は禁止されています。
 二つ目は第二世代のフロン(代替フロン)と呼ばれ塩素が含まれないものなど色々あるのですが、オゾン層破壊が少ないことから広く用いられるようになりました。しかし、このフロンは温室効果を引き起こすため、暫定的なフロンと考えられます。
 私どもの研究室では、第一世代のフロンを、光など当てることによりエーテルと塩に分解出来ることを発見しました。このエーテル(フロロエーテル)が第三世代のフロンとなります。エーテルには酸素が入っているので、空中に出てしまうと壊れて無害になります。だからオゾン層を壊さなければ温室効果も引き起こしません。
 ゼロエミッションというのは全くごみが出ないということですけれども、ここで出る残りのごみとなるものは塩です。塩は海にいくらでもあります。有害なものから有用なものを生むということで、有効に資源を使う研究を進めています。
太陽の光から食べ物を~チャレンジすることが目標です~
 地球上の石油・メタンなどのエネルギー源というものは、延命策はあるにせよ使ってしまうといずれなくなってしまいます。
 そのとき、最後に残っているのは太陽の光です。これは地球の外から入ってきていて、太陽が輝いている限り利用できます。私どもは、光触媒『フラーレン』というものを研究しています。
 太陽光を使い工業的に食料を作ろう…。ということで、空気と水と炭酸ガスと『フラーレン』を利用しアミノ酸を作るのが、今のターゲットです。目標は大きいのですけれども、今はアミノ酸までは行ってなく、アミン類まで出来るということが分かってきました。いずれは、醤油みたいなものがいっぱい出来ればと考えます。
 私の目標は、チャレンジすることです。色々なアイデアを試し人が思いつかないようなことにチャレンジする。そこに目標を持つことで偶然でも新しい発見の可能性が出てきます。そこが非常に面白いところです。
最近の研究話題から
 ビーカーを2つ置き、その中に超純水をいれる。超純水という意味はイオン性の物質がなく、電気的に動くものがありません。超純水が入っているビーカーに表面いっぱいに水を入れてビーカー2つをくっつけておきます。そして、そのビーカーの中に電極を刺し10万ボルトほどの電圧をかけ放電します。そうすると水はビーカーの表面を流れ、離していくと水の橋ができるんですよ。これがウォーターブリッジといってこの間テレビのドリームビジョンという番組で実験してみました。
 それは、私が見つけたのではなく、オーストリアのファックさんという方が1年くらい前に発見したものなのですが、その後もメール等でやり取りをし、楽しい思いをしています。
これからの大学 大学全体のサステナビリティー(持続性)を求めポスドクを雇うなど、大学もいよいよ研究支援システムの強化が始まりました。 今までは教育にすごい力を入れ、教育支援システムがずいぶん整備されてきました。
 これからは、研究関係の支援システムの力を上げていくことが肝心です。
 校舎も新しくなり環境が飛躍的に良くなりました。大学は教育と研究がワンセットになっているものと私は考えます。まだ試行的ですけれども、競争社会に入れるかどうか、ちょうど今が変わり目です。そして、教育と研究というのは非常にハイレベルになっていく可能性を持っているのも今かな、と思います。
研究室の雰囲気作り
 毎年、和気アイアイとした研究室です。コンパが多いところなどが一番の特徴なのではないかと思います。冬はスキー、夏は合宿、他に、私の家へ呼んだり、忘年会をやったり、芋煮会なども行っています。芋煮会には最初、人も余り集まらなかったのですが、今や触媒とかの研究室つながりで、15大学くらいからなる本当に大きな集まりになりました。
 学生はそういう一つ一つのイベントで徐々につながりを深め、ひとつの自治体としてまとまりが出て来ます。
卒業生とのつながり
 OBとOGのつながりということでは、メーリングリストを作成しています。今まで270人くらいの卒業生がいますが、半分くらいのアドレスが分かっています。そのメーリングリストに、研究や行事を流しています。研究室も34年が過ぎ卒業生も、年代が20代~50代と離れてきています。それぞれに価値観や物の考え方が違うため流す情報もなかなか難しいのですが、5年毎に研究室の同窓会を開いています。卒業生とのつながりを大切にしておくことは、結果的に大きな力になります。また、結束も強くなりますからから、こういうことは続けることに意味があると考えております。

西海先生!研究室の皆さま
お忙しい中ありがとうございました。
聴き手 山川 宏明(土84)
南埜 智子(シ08)