第84号 法政大学理系同窓会報を8回に渡り,毎週月曜日に公開していきます.
機械工学科・機械工学専修・流体工学研究室 辻田星歩 教授(機86)
─ 現在の研究テーマとその内容 は何ですか?
私の研究室では現在(2012年度)、博士後期課程の学生1名、修士課程の学生11名、 学部の3、4年生16名で研究活動を行っております。研究テーマはジェットエンジン や産業用ガスタービンに代表されるターボ形流体機械の空力的性能向上に関するもの です。以下にその概要を紹介します。
1) 軸流タービン翼の空力および冷却性能の向上を目指して
ガスタービンは、「圧縮機」により圧縮された空気が「燃焼器」で燃料を添加され 燃焼し、その燃焼ガスが「タービン」を駆動することにより作動します。
タービン翼の高負荷化は、特に小型軽量化が要求されるジェットエンジンやマイク ロガスタービンの性能向上には欠かせない課題です。しかし、高負荷化は空力損失も 増加させるため、その結果効率が低下します。本研究室では、転向角160°の超高負 荷タービン翼を対象に、効率の低下を抑えて高負荷化を実現するために、その翼列モ デルの内部流れの詳細を実験と数値解析により調べています。
また、ガスタービンの効率はタービンへ流入する燃焼ガスの温度と共に向上しま す。そこで材料の耐熱温度以上の燃焼ガスを流動させるために、空気冷却法が導入さ れています。その中で最も冷却効率が高い方法は、トランスピレーション冷却です。 これは内部に無数の空洞を有する多孔質材料によりタービン翼を形成し、翼表面から 冷却空気を浸み出させる方法ですが、実用化には至っておりません。本研究室では、 数値解析により同冷却を有するタービン翼列流路内の流れを解明しております。
2)遠心圧縮機の小型化を目指して
出力が300kW以下の電力源として、マイクロガスタービンが環境エネルギー問題 の観点から注目されています。それを構成する遠心圧縮機に対しては、小型化に伴う 加工技術の制約や高速回転化に伴う材料強度の問題を考慮した、羽根車形状の最適設 計手法を確立するための情報の蓄積が求められています。本テーマでは、小型高性能 化を目的に遠心羽根車を設計・製作し、実験と数値解析の両面から羽根車の性能評価 を行っています。
3) ターボチャージャの性能向上を目指して
車両用エンジンなどのターボチャージャは、エンジンからの排気ガスで「タービン」 が駆動し、同軸上の「遠心圧縮機」が回転することによって空気が圧縮され、それを エンジンへ供給することによりエンジン出力を増大させます。遠心圧縮機に おいては低流量域において生じる空力振動を伴う不安定現象が運転 範囲を制限するため、それらを抑制するための研究を、またタービ ンにおいてはエンジンの出力に応じた広作動域での性能向上を図る ための研究を企業のご協力のもとに進めております。
─ 研究や教育で特に力を入れている点や工夫などをお聞かせ下さい。
本研究室では、基本的には学生の自主性を重んじた研究教育活動 を心がけています。学生が各自の研究テーマを遂行していく責任を認識したうえで、 必要な情報を得ながら先ずは自身で考え、また学生同士で刺激し協力しながら研究活 動を行うことで、社会に出て必要な責任感、目的意識、協調性やコミュニケーション能 力を身につけてもらいたいと考えています。このような環境下で研究活動を行った 次の大学院生が、学会発表で高い評価を受けたことをうれしく思っております。
─ 理系同窓会への要望・期待がありましたらお聞かせ下さい。
より若い世代へ同窓会活動を引き継いでいくには、世代間の意識や感覚の違いを認 識したうえで、その活動の重要性を在学生に感じてもらうことの出来る企画を立て、 それを継続していくことが必要かと思います。あらゆる面で余裕がなくなっている現 在の社会環境においては、そのような企画を立案し実施していくことは非常に難しい と理解しておりますが、同窓会が先頭に立って卒業生、在校生、教職員の協力のも とに実現されることを願っております。