栗山 一男教授(情報電気電子工学科) 研究者を目指した若き日々 ――先生はどのような経緯で電子材料の研究を始められたのですか? 私は法政二校出身で、当時は気象に興味があり、レーダーをやろうと思っていました。ところが、大学二年の時に岩村国也教授(故人)の固体物性物理学を受講したところ、大変面白くまさに目から鱗が落ちる思いをしました。これが半導体の基礎研究に進むきっかけとなりました。 ――当時はどのように研究を進められていたのですか? 岩村教授は他学科の先生でゼミに所属することができませんでしたので、電気材料の専門家の正木先生のゼミにお世話になりました。本来4年生からゼミに所属するのですが、私は3年生から所属させてもらい、勉強を始めました。当時、工学部は専門学校に毛が生えた程度の実験設備しかなく(笑)、卒論は田無にあった通産省の電気試験場(’70から電子技術総合研究所)で行いました。人と同じことをやっていてはだめだと思い、実験に没頭して、どの研究員よりも遅く帰っていました。クリスマスイブも徹夜をして、警備員さんに驚かれましたよ。実験が上手くいかない時には、武蔵境のパチンコ屋で気分転換をしたものです(笑)。 私はもともと研究者になること目指していたのですが、研究所の研究のプロ集団の中にいると、どうしても彼らのお手伝いになってしまう。そこで、博士課程では大学に戻って研究を続けました。 ――研究所での生活で得たものは? 基礎的な勉強が出来たおかげで、議論に参加出来るようになった。さらに、広い人脈も出来ました。研究所は筑波に移転(現産業技術総合研究所)しましたが、今でもそちらで共同研究を行っていて、大学にはない実験装置を使わせてもらっています。京都大学とも共同研究を行っています。“小金井村”でじっとしていたのでは何も広がっていかないので、人脈を駆使して外へ出て行かないといけません。 微小リチウム2次電池の開発 ――最近はリチウム2次電池に力を入れられているようですね。 リチウム化合物をずっと扱ってきました。リチウム電池の研究を始めたのは、5、6年前でしょうか。博士課程の学生のテーマとして、基礎研究ばかりでもだめだということで、応用を視野に入れて取り組み始めました。大きなものはどこでもやっているので、狙いは微小リチウム電池。半導体チップの中に人間の髪の毛ほどのサイズ(100μm)のバッテリーを埋め込む技術を開発しています。 ――成果はあがりましたか? 試作を行い米国の速報誌(Applied Physics Letters)に論文を投稿したところ、論文誌に発刊される前にもかかわらず、米国から電子メールで取材を受けました。その後、MIT Technology review電子版に「On-Chip Battery Debuts」というタイトルで全世界に配信されました。しかし、日本のメーカーからは音沙汰なしです(笑)。 MEMS搭載用微小電池への応用 ――具体的にはどのような応用が考えられますか? 最近、微小電気機械システム(MEMS:メムス)の開発が盛んに行われています。某メーカーが開発したMEMSは、人体内部の患部まで到達させて適切な治療を行います。しかし、腹巻をして外部からマイクロ波を送り電力を供給している。これでは本物のMEMSではありません。我々はMEMS搭載用の微小電池の開発を目指しています。動力源を搭載したMEMSが実現できれば、幅広い分野への応用につながります。 研究と言うのは面白いもので、どこか別のところで同じことをやっている。韓国のメーカーや、大きなものを開発しているNASAでさえも同じようなことをやっています。目下、我々の競争相手はNASAです(笑)。 ――本日はお忙しいところありがとうございました。 聞き手 原田 和夫(機械62) 柴山 純(電気93) 栗山 一男 教授 1948年 鹿児島生まれ 工学博士
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