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第83号 法政大学理系同窓会報を11回に渡り,毎週月曜日に公開していきます.

先生こんにちは!

「科学を科学する」―科学原理への挑戦―法政大学理工学部創生科学科 三浦孝夫教授(京大)

自己紹介
京都市生まれです。伏見稲荷大社のすぐ横で学生(京都大学)時代を過ごしました。法政大学には1998年に工学部電気電子工学科教授として赴任し、2011年から理工学部に新たに生まれた創生科学科教授として、主として知能フィールドの分野を担当しています。


❖現在のご研究の内容を ご紹介ください。

 私は企業に勤めているときからデータベースの研究に携わってきました。当時から、データベースシステムは高機能・高速・大量・高信頼であることが要求され、これに応えることができる基幹系システムとしての重要性を体験してきました。一方、変化が激しく、動向が多様な環境に追随するために、データベースには常に柔軟性が要求されます。この経験を基にして、しかし本来の“売り”である高速・大量・高信頼と整合しないことが多く、現実には妥協と性能のサジ加減をとる毎日でした。この経験を基にして、大学ではデータベースに柔構造を与えることに力を注ぎ、「複合オブジェクト」の解明と構築という形にまとめることができました。
 20世紀の最後の10年はインターネットを介した情報爆発の時代でした。数テラバイトに及ぶデータ量をきちんと扱える機構は世の中には存在せず、現状はできるだけ単純で頑丈な方式で何とか対応しています。
 一方で、新たな機能が必要となってきました。膨大な情報すべてに目を通し、意味することをまとめることは不可能です。情報の意味を自動的に抽出する(推定する)ことが要求されるようになりました。これらは“データマイニング”と呼ばれ、現在の主たる研究テーマになっています。
 データベースの立場から見れば、データがすでにあってどう整理するのかという疑問は、これまで知識獲得、スキーマ発見などと呼ばれてきました。統計学、確率・確率過程、多変量解析、機械学習理論など、関連する分野は広いのですが方向は同じです。私自身はスキーママイニングを論じていますが、学生には多様な分野に自由に出入りさせ、固定した価値観を与えないようにしています。この結果、データ工学やインターネットというコア分野にとどまらず、確率過程、自然言語理論、確率言語理論や、機械学習を活かしたオークション理論まで幅広い研究分野を扱っています。最近では「階層型隠れマルコフモデル」という確率過程を用いた変化の推定を行っています。

❖ゼミの活動状況はどうなっていますか?

 研究発表は積極的に行っています。内に籠った体質の学生が増えていく中で、私は大学院ゼミ生には国内外での発表(合計で毎年30件程度)を強く要求しています。ほとんどの学生がこれに応えてくれていますが、自分の主張をまとめ発表するのは大変ですし、資金も勇気も必要です。優秀な学部生にも海外発表を経験させましたが、法政大学の学生たちは十分な能力を備えていると思います。他方、とんでもないことを知りません。例えば、テーブルマナーを全く知らないことがあり、定期的に講習会を(レストランを借り切って)開いています。
 夏休みはゼミ合宿を行います。私は大学に勤め出して以降、ほぼ毎年、外部の大学と共同で学会形式での発表会を実施しています。深夜に及ぶ発表と意見交換で、学生はフラフラになりますが、不思議なほどの充実感があるようです。社会に出てからもこの経験は役に立っているようで、経験を話し込みに来る者も多数います。

❖今年度より創生科学科が発足しましたが、教員として期待することは何ですか?

 理工学部において、原理の解明に力点を置く「理」を正面から扱う学科はありませんでした。新しい学科では、「ものづくり」を支える科学原理の解明と調和が主たるテーマになっています。これまでのような基礎科学に籠るのでは新世紀での発展に寄与できません。多様な分野を束ねる大きな科学の枠組みを模索したい、これが「創生科学」(advanced science)と名付けた理由です。「科学を科学する」ことが新たな学問を生み、複数の学問系を束ねていく動機になることを期待しています。
 年次進行に伴って国際的に著名な教員が加わります。多様な展開を期待していただきたいと思います。

❖同窓会へのご意見をお聞かせください。

 学生時代にはあまり同窓生である必要性を感じませんが、社会に出たとたんに、長い伝統のある法政大学が社会でどのような重要な役割を果たしてきたのか、先人のありがたみを感じるものです。各組織での小さな集まりを束ね、さまざまな年齢層や職場をつなげていくことができるのが同窓会であると思います。

聴き手 川上忠重(機85)