第91号 法政大学理系同窓会報を16回に渡り,毎日公開していきます.
2019年4月より生命科学部環境応用化学科に着任いたしました尾池秀章です。専門は,有機化学および高分子化学です。学生時代を含めて三つの大学,一つの研究プロジェクトにおいて教育および研究に携わり,法政大学が五つ目の所属機関となります。これまでの研究対象のうち,特に大きな環を構造にもつ分子に興味をもっています。大きな環をもつ分子は,その内側に別の分子やイオンを取り込むことができたり,知恵の輪における環のつながりのように化学結合によらない連結を可能にしたりしますので,様々な機能をもつ物質をつくりだすことができます。今後も生命現象の解明や新しい機能性材料の開発,分子マシンの創製などにおいて重要な役割を果たしていくものと期待されます。
私は,高校化学グランプリや化学オリンピックの活動などを通して,高校生以下の生徒への教育にも間接的ではありますが長年携わっております。次代の人材を育成していくのは,教育・研究分野に身を置く者の責務です。これまでの様々な教育活動および先端分野の研究活動をもとに,化学あるいは科学に興味をもち,学び始める生徒,学生に対する教育に,より一層貢献したいと考えています。
2019年4月1日付で、情報科学部コンピュータ科学科に着任しました秋野喜彦です。専門は、主に計算物理学及び統計物理学です。早稲田大学を卒業後、欧米の大学や研究機関にて統計物理学をベースに、モンテカルロ法や分子動力学シミュレーションを用いて相転移や臨界現象に関する研究に取り組んできました。その後、本年3月まで住友化学に勤務し、計算に限らず、分析・解析・開発といった様々な立場から、有機エレクトロルミネッセンスに用いられる発光材料の研究開発に従事してきました。企業での研究開発の経験や、様々なバックグラウンドをもつ人々との交流は、非常によい経験になったと実感しています。
今後も、大規模計算機シミュレーションを用いて現象の本質的理解を進めつつ、有機エレクトロニクス分野における新しい材料やデバイスの高性能化など、実用化へと繋げていけるような研究を続けていきたいと考えています。教育においても同様に、実務経験を活かしつつ、学生が問題の本質を捉え、議論・協力して解決にあたれる姿勢を身に付けられるように取り組んでいきたいと考えています。
これからいろいろとお世話になるかと存じます。よろしくお願い致します。
建設コンサルタント・日本工営(株)10年、国土交通省5年、東京都市大学4年、産官学の経験を経て本学に着任しました。
本研究室では、多くの民間企業、官公庁や他大学と連携した共同研究体制を構築して、次の研究テーマを2本柱にして取り組んでいます。今後も学生達が現場の第一線で活躍している行政者・技術者・研究者とともに活動し、聞くより見る、見るより触る、そして実社会で利用される研究成果を発信することを体感できる環境を充実させて参ります。
【国土空間の計測・管理手法の研究】トータルステーション、移動体計測車両(カメラやレーザを搭載した車両)、レーザ・レーダやUAV(ドローン)などの様々な機器で計測された写真や点群データを用いた国土空間のプロダクト(三次元)モデルの生成・活用手法を研究しています。
【都市活動の分析・見える化の研究】携帯電話やカーナビゲーションシステムなどの媒体から24時間365日取得される人や車などの膨大な移動履歴のデータと、統計調査の各種資料とを組合せて、都市活動の現状把握、潜在事象の発見や将来予測の分析・見える化手法、分析・見える化に応じた道路ネットワークや地図基盤を研究しています。
第91号 法政大学理系同窓会報を16回に渡り,毎日公開していきます.
4月1日付で理工学部電気電子工学科の専任教授に着任いたしました里週二です。当研究室では高電圧工学に関連した研究を行っています。発電した電気エネルギーを効率的に送電するためには電圧を高く,電流を小さくすべき,との結論は既に19世紀後期から知られています。以来,技術の許す限りの高電圧で送電を行ってきました。使われる高電圧機器は送電電圧以上の異常電圧に耐えることを確認するため,機器完成時に各種電圧波形を加え耐圧試験を行います。その波形の中で測定が最も難しいのが雷(かみなり)を模擬した雷(らい)インパルス電圧です。この波形をディジタル・レコーダで記録し,離散データから国際規格に定める手続きに従って,波形パラメータを抽出し,正しい試験電圧波形が使われていることを確認する必要があります。当研究室では波形パラメータ抽出に関するハードウェア,ソフトウェアの研究及びその国際規格(IEC 61083-1,IEC 61083-2)の設定及び改訂に関する作業を行っています。また,関連する国内規格JEC/JISの設定,改訂にも携わっています。
法政大学の一員として,大学の発展に貢献するよう努力いたす所存でございます。何卒ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
今年、東京大学大学院数理科学研究科から理工学部経営システム工学科に着任しました、寺杣友秀です。着任がしたばかりで、まだまだ未熟ですが、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
さて、着任にあたりまして、専門としています代数幾何と工学とのかかわりについてご紹介したいと思います。代数幾何は一言でいえば代数方程式で定義される図形の性質を研究する分野です。図形に座標を導入し、座標変換によって変わらない図形の不変量を研究する学問です。なかでもコホモロジー理論はグロタンディークの登場について劇的な発展をとげました。代数幾何は抽象的な学問でありますが、近年インターネット技術の発達により、社会への応用が注目されています。セッキュリティーの基礎暗号理論、情報伝達の基礎符号理論、シミュレーションの基礎乱数理論など、デジタル技術のいたるところに現代代数学の結果が用いられています。
工学部はこれらに工夫を重ね応用する使命をおっています。そこにおいて、I T技術の新しい常識、代数的センス開発の場を提供することが任務と思います。手探りの状況で始まったばかりですが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
4月1日付で理工学部機械工学科に着任いたしました平野利幸です。専門は、流体 工学、流体機械です。
特に流体機械の代表ともいえるターボ機械は、先端材料の利用、コンピュータによる解析技術の進歩、流れのビジュアル化技術などにより小型化、高性能化が図られています。私は主にターボ機械の流れと性能に関して基礎から応用にいたる研究を行っています。研究では性能(Performance)、信頼性(Reliability)、製造可能性(Manufacturability)、テスト容易性(Testability)について多くの克服すべき課題があります。ターボ機械において、微小な流れ場における旋回失速やサージングなどの非定常現象についての詳細はほとんど知られておらず、これらを性能特性の面から明らかにする必要があります。また、研究を通じて、実際に部品を設計、製作し、コンピュータによるものづくりで効率化を目指すとともに、学術的にも常に新しい発見と現象を明らかに出来るように取り組みたいと考えております。そして、研究を通じて少しでも多くの学生が産業界で活躍できるように学生の研究教育に力を注いでいきたいと思います。微力ではありますが、機械工学科の一員として少しでも貢献できるよう努力していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
平成31年4月1日付、理工学部機械工学科に着任いたしました。
長く、操縦士養成に携わり、3月までは独立行政法人航空大学校で教頭として勤務し ておりました。
訪日外国人数は2018年に初めて3000万人を突破し、2020年は4000万人に到達するのではという勢いが続いております。それにともない、航空輸送を担う本邦操縦士の需要はこれから年間約400名に及ぶと言われます。これが所謂ボトルネックとならないように、良質なエアラインパイロットを、この法政大学からこれからも継続的に輩出していくことは大変重要だと考えております。また法政大学は操縦士資格を航空局の試験官による実地試験を受けることなく取得できる「航空従事者指定養成施設」となっており、これを引き続き維持拡充させていくことも大切です。
学生にはまず「飛べるエンジニア」としての基礎をしっかり身につけさせ、それをベースに社会が求める航空人へ巣立ってもらいたい。乗員養成は、まことに地味な知識とノウハウの積み重ねですが、航空関連の技術の革新に伴って常に教育プログラムを組みなおし最適な方法でその能力を引き出す努力が必要です。よろしくお願い致します。
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航空操縦学専修の近況
航空操縦学専修は2008年4月機械工学科に開設され、今年で12年目を迎えました。同様のスキームを持つ他大学とはひと味違い、日本の空で飛行訓練プログラムを展開、エアラインパイロットを 含め幅広い分野で活躍できる操縦士の育成、機械の解るパイロット「飛べるエンジニア」養成の理念に基づき教育を行ってまいりました。
座学教育としては、機械科学生としての学部教育、及び航空専修としての航空関連科目(必須)を行います。飛行訓練については、1・2年次に初歩の飛行訓練であるフレッシュマンズフライト及び初等Ⅰ、3年次になると、自家用操縦士課程の履修を行い、ここまでが「飛べるエンジニア」としての必修科目です。
これ以降本人の希望により「飛べるエンジニア」としての学部授業・就職活動、更なる勉強のため大学院進学、またプロパイロットを希望する者にあっては事業操縦士課程以降に進んでいくことになります。近年は航空界の大パイロット不足もあって殆どの学生がエアラインパイロットを目指しているのが現状です。
プロパイロットになるためには自家用・事業用操縦士、及び多発限定・計器飛行証明の4つのライセンスが必要となります。学部授業で124単位を取得しながらこれら4つのライセンスを大学4年間で取得するわけですから学生は完全に二足の草鞋をはいいていることになります。
又、飛行訓練という極めて特殊な訓練を安全に効率良く実施するため法政大学飛行訓練センターが設置されています。フレッシュマンズ・初等Ⅰ、自家用及び事業用課程を行う桶川訓練所(埼玉県ホンダエアポート)、更に高度な訓練である多発・計器飛行課程を行う大分訓練所、及び増大する訓練量に対応するため今年 から岡山訓練所も新設されます。
卒業生はANA、JALを含め殆どの航空会社にパイロットとして就職しています。一期生はまもなく機長になろうとしています。また、機械の解るパイロット(いわゆる「飛べるエンジニア」)もANAの総合職を始めNCA、ピーチ、SKY等に就職、文字どおり航空界の一翼をになっています。
今後とも航空専修への一層の応援、よろしくお願いいたします。
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ホームカミングデー(2019/11/2)講演要旨
身近なセラミックス微粒子を科学する
環境応用化学科・教授(無機合成化学研究室) 石垣 隆正
セラミックス(無機固体材料)分野の発展に顕著な業績をあげた研究者に授与される日本セラミックス協会フェロー表彰を、2019年6月7日に受賞しました。気相法、液相法を用いて種々のナノ粒子セラミックスを創製してきました。特に気相プラズマ合成法で、製造プロセスの高度化により機能性発現に重要な化学組成、結晶性、生成相等を精密制御してセラミックスナノ粒子の高性能化および新機能の発現をはかり、セラミックス基礎科学の発展に貢献したことが受賞理由です。
セラミックス微粒子の合成と応用を研究テーマとする無機合成化学研究室では、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの微粒子を水溶液中で合成し、光触媒活性、発光特性、電気・磁気特性を向上させるための研究を行っています。環境に優しい方法で高機能セラミックス微粒子材料を合成して、持続可能な環境と社会を生み出すのに貢献する人材を社会に輩出しています。
当研究室で行っているセラミックス微粒子の研究は、皆さんの身近に存在する様々な電子デバイス、光デバイスの高性能化、小型化に関係しています。代表例は、スマートフォンに使われている積層セラミックスコンデンサという部品です。この部品は、一台のスマートフォンに700 ~ 800 個使用されています。携帯電話がショルダーバッグ程度の大きさから、手のひらサイズになり、さまざまな機能を有するスマホになるには、使用されている電子部品の小型化が大きな役割を果たしました。現在使用されている原料(BaTiO3)粒子サイズを、サブミクロンサイズ(1mmの数千分の1程度の大きさ)から10分の1以下に小さくして、粒径10ナノメートル(ナノメートルは10-9 m)程度にまですると、電子デバイスのさらなる小型化、高機能化が期待されます。
セラミックス微粒子の身近な使用例をもう一つあげると、化粧品への応用があります。ファンデーションやサンスクリーンの構成素材の95%以上が無機化合物です。紫外線吸収など微粒子の機能には、素材がもっている固有の特性が関係します。一方、ファンデーションとしての特徴、隠蔽力あるいはその逆の透明性には、微粒子の形態、大きさが大いに関係しています。
微粒子合成研究の醍醐味は、化学組成が同じ材料をさまざまな大きさ、形態、結晶構造でつくることです。図は、さまざまな形態をもったZnO(酸化亜鉛)微粒子の電子顕微鏡写真です。また、最近よく聞かれるようになった光触媒の材料であるTiO2(二酸化チタン)では、異なる結晶構造をもった微粒子が合成可能です。
マイクロ流体有機ELの開発
電気電子工学科 専任講師 笠原 崇史
人々の生活を豊かにし、社会に貢献することを目標として、学際領域であるフレキシブル・ハイブリッド・エレクトロニクスデバイスに関する研究を行っています。特に、半導体微細加工技術、印刷技術、各種分析技術を基盤として、微小電気機械システム(MEMS)と有機エレクトロニクスとを融合した「マイクロ流体有機EL」や、最先端の電気電子材料を積極的に取り入れた機能性マイクロデバイスの創出に力を入れています。 現在、有機ELパネルを搭載したスマートフォンや薄型テレビの実用化が加速しています。有機ELは厚さ100 nm程度の固体有機半導体の多層膜を2枚の電極で挟み構成され、直流電圧を印加すると有機化合物そのものが発光する「自発光型」デバイスです。バックライトが不要であることから、薄型、軽量化が可能であり、さらに高コントラストの映像を再現できるという特徴を有しています。その一方で、近年、有機溶媒を用いず、常温で液状の機能性有機材料が様々な研究分野で注目されています。発光素子としては、2009年に液体有機半導体を発光層に用いた液体有機ELが初めて報告され、液体の流動性や柔軟性を有した従来の延長線 上にないディスプレイの実現に期待が高まっています。しかしながら、従来の液体有機ELは、1種類の液体有機半導体を電極が形成された2枚のガラス基板で挟んだだけの簡易的な素子構成であり、複数の液体を精度よく塗り分け、マルチカラー発光を得るのは困難でした。我々は、液体材料の特徴を活かした革新的ディスプレイの創生を目指し、これまで化学・生化学分野で発展し、微細流路による溶液の送液・化学反応を得意とするMEMSマイクロ流体技術と、液体有機ELとを融合したマイクロ流体有機ELディスプレイを提案し、研究開発を進めてきました(図)。
本講演では以下の3テーマについて紹介します。(1) 半導体微細加工技術と異種材料接合技術による電極付きマイクロ流体デバイスの作製技術と液状ピレン誘導体の電界発光特性、(2) エネルギー移動機構を利用したマルチカラー発光、(3)液体の柔軟性を活かすフレキシブルデバイス。2018年4月に本学に着任して以来、学生とともに自由な発想で、支援ツール(CAD)を用いた新規デバイスの設計、イオンビーム工学研究所の半導体製造装置類による試作、作製したデバイスの特性評価を行っています。講演では最新の成果と今後の展望についても紹介する予定です。
本学の研究の発展ならびに教育研究を通じて学生にとってかけがえのない経験を与えられるよう誠心誠意努力いたす所存でございます。今後とも、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。