新学部設置準備委員長 白井五郎
●法政大学工学部の未来について 法政大学は創立以来125年以上の歴史があるが、その中で工学部は昭和19年の航空工業専門学校設置以来60数年の歴史を持っており、総合大学の工学系学部としての伝統ある学部である。 今後、法政大学が総合大学としてその一躍を担うためには、理系学部の飛躍的な向上がなされなければならない。21世紀は20世紀のローカルな工業化を経て地球環境を重視した科学技術の発展が求められている。現在まで、工学部は常に時代の求める課題に取り組み社会貢献を果たしてきたが、今後、本学の理系学部は21世紀の未来を見据えた科学技術の一層の発展に貢献すると同時に、次世代の課題に挑戦する人材の育成に寄与出来るものでなければならない。 工学部の本格的改革は2007年度のデザイン工学部の設置に始まる。その第二段目が今回の理工学部および生命科学部の設置である。これらの学部は工学部をベースとしており、互いに有機的な連携を持った学部である。キーワードはウエルビーイング(Well-being)である。 ●教学改革の目的と狙い 現在、世界人口は、約65億人であるが2050年には、90億になることが予測されている。現在ですら、温暖化、資源の枯渇化、地球環境の悪化、食糧問題など、種々の課題を抱えており、今後の不安は尽きない。今まで人類が経験したことのない課題が次々と表れてきている。これらは全て科学技術に関連した課題であり、理系学部の役割はきわめて大きいと考えられる。これらの課題に挑戦する研究体制並びに人材の育成には、従来の縦割り型工学部体制では難しい。なぜならば、解決すべき課題は極めて複雑化しており、多方面の知識や技術を持った技術者・研究者の育成が不可欠である。 一方、我が国を支えてきた製造業は、他国の追従を受けながらも、依然としてトップを走っている。我が国の製造業の強さを維持してきた基幹学科を強化し、社会が求める技術者・研究者の育成も欠かすことが出来ない。これらを満たすことの出来る学部学科の確立が今回の教学改革の狙いでもある。新学部では、学生は自分の志望する学科に入学するものの、各自が将来希望する職業に応じてキャリアを充実できるように幅広く他学科の科目も履修出来、かつ一定数まで卒業単位として認定する柔軟性のあるカリキュラム構成になっているのも今回の改革も目的のひとつである。また、教養科目と専門教育科目のウエイトについてもある程度の自由度を持たせ、今日の多様化した学生のニーズに応えられるように工夫されている。 ●新学部と新学科の編成 <理工学部:410名> 20世紀型の学部ではなく、21世紀型の学部を確立した。ひとつは理工学部である。モノの生産においても常に地球規模で考えたリサイクル型製造業、人に優しい製品、また、生産性の向上を目指した競争力のある製造業の在り方などにも配慮した学部である。新しい理工学部では、原理・原則を追求する「理」とモノつくりの「工」が融合した学部であり、複雑な課題の解決能力を備えた研究グループや先端的技術を身につけた人材の育成を目指している。 理工学部は、伝統的な学科である機械工学科、電気電子工学科、応用情報工学科、経営システム工学科よりなる。さらに今回、機械工学科内に航空操縦学専修を設けた。航空機は機械工学、電気電子工学、情報工学、経営工学などの各分野の最高技術を結集した製造物である。航空機を作り、自ら操縦することは若者のひとつの夢でもあると考えられるので、航空操縦学専修を設置することにより、本学の理工学部が若者にとってより魅力的な学部となることを期待している。定員は以下の通り。 機械工学科 機械工学専修 100名 航空操縦学専修 30名 電気電子工学科 100名 応用情報工学科 100名 経営システム工学科 80名 <生命科学部:200名> 21世紀の理系学部は生命科学系の学問分野を抜きにしては考えることは出来ず、生命科学部を設置した。生命科学部は、生命機能学科と環境応用化学科よりなり、さらに生命機能学科は生命機能学専修と植物医科学専修の2専修制となっている。 生命機能学科生命機能学専修では、生命体の基礎単位である細胞機能を発現する課程の分子的基盤を理解し、また細胞や分子一つひとつの個性発揮の物質的基盤を解明するための教育研究を行う。 植物医科学専修では、食糧・環境・および物質の密接な関連性に基づき、植物疾病に関する最適な診断・治療・予防などより応用色の強い専門職教育を行う。 環境応用化学科では、21世紀のキーワードである「物質」、「生命」および「環境」の領域の密接な関連性に基づいた21世紀型の先端化学を基礎として、低環境負荷型機能性材料、生体基盤材料等の物質開発に必要な知識と手法について学び、環境、資源および生体が共存する理想的な社会実現のための物質開発に携わる技術者・研究者の養成を目指した教育研究を行う。 学科構成は以下の通り。 生命機能学科 生命機能学専修 60名 植物医科学専修 60名 環境応用化学科 80名 ●教学改革の実施時期 理工学部および生命科学部は2008年度4月に小金井キャンパスに開設予定であり、現在文部科学省へは設置申請届出中である。 ●工学部の改組後 工学部は、新しい三つの学部に改組される。デザイン工学部(2007年発足)、理工学部および生命科学部(2008年4 月発足予定)になる。 理系学部の学問体系や研究対象は、21世紀に入り急激に変化している社会のニーズや表れてくる課題に沿って変化せざるを得ない。現行の教学改革は、今後も続くものと思われる。常に地球社会の変化を捉え、教学改革の見直しがなされなければならない。 21世紀社会が、20世紀社会と大きく異なることは、基本となる科学技術が、20世紀の轍を踏むことなく、広い視野に立って全て地球規模、人間ベースで考えなければならないことである。新しい理工学部、生命科学部および先発のデザイン工学部は、60数年の歴史を持った工学部の基礎のもとに発展してゆく学部である。
|