法政大学工学部同窓会
 
2023年3月28日(火曜日)
活躍するOG紹介 なかだえり(建築・修士00) 印刷 Eメール

 今回の活躍するOGは、大学院工学研究科建設工学専攻陣内研究室を卒業後、イラストを中心に活躍されている「なかだえり」さんを取材しました。北千住駅から徒歩数分の、アトリエである築後190年の歴史の「蔵」にお邪魔させて頂き、色々なお話を伺いました。

建築からイラストレーターへ
――何故、法政大学の大学院へ入学されたのですか?
 日本大学生産工学部建築学科の4年生の時、友人が陣内秀信先生著書の「江戸東京のみかた調べかた」を紹介してくれたことがきっかけです。それまで路地に興味があり、路地・街並を研究する事が出来るのだと、すぐに陣内研究室に進学を決めました。

――何がきっかけでイラストレーターになられたのですか?
 今は工学部と関係ない仕事ばかりなのですが……(笑)。修士2年生の時に、陣内先生と共にサーベイ(現地調査)でタイのバンコクを訪れました。その時に、風景等をスケッチしていたところを先生が見て「いいね、いいねー」と言って頂けたのです。丁度、先生はご自身の本を出版するところで、その本用の写真やイラストをどうするのか考えていた所でした。帰国後、学生であったのですが先生と出版会社(講談社)の方達との打ち合わせに伺い、それが初めてのイラストレーターの仕事でした。学生の乗りで、打合せ当日までに間に合わせなくてはいけないと、一晩で大小40カットも描いて行ったんですよね。でも、直ぐに本は出来るわけじゃないので、先生は序章の原稿をA4に4~5枚くらいしか持って来ていなくて……絵だけ先に出来ちゃったんです(笑)。当初の予定では、本には写真+イラスト使用する予定でしたが、結局、写真は使わず全てイラストになったのです。全部、先に描いて行ったことで出版会社の方にも納得してもらえたのだと思います。そこからイラストレーターになりました。タイミングが良かったのです。

――いつ頃からここをアトリエにしているのですか?
 大学院在学中である99年に調査中のこの蔵が空き家になったので、実際に住んでみたのです。それから、翌年3月に卒業後、4月に先生の本が出版され、その勢いで原画展を5月にこの蔵で開催しました。個展をすると見に来てくれる人がたくさんいました。

――今はどんなお仕事が中心ですか?
 今現在は、80%くらいがイラストの制作で残りが建築設計をやっている感じでしょうか。それ以外にも陣内先生の紹介で「東京人」という雑誌の中で、不定期でありますが、原稿やイラストなどを書いています。イラストは迷いなく早く出来るのですけれど、原稿はちょっと時間が掛かります。特に、イラストマップは好評なようで、近所の仕事が多いのも特徴でしょうか……。タウン誌の作成や下町の蔵マップなども制作しています。千住界隈の蔵を探してみたら50棟ほどあることが分かったり、大きさを調べたりしました。観光化された川越の蔵は、街道沿いに作られた店蔵という形で存在し、千住の蔵は道に面していない裏手にある普段使いの蔵だったりするのです。そんな蔵を見てもらうことから街が発見出来るのです。


夢……、特にないです
――どのように新たな仕事と出会うのですか?
 人が好きだから人のつながりがあって、そこから仕事が回って来る気がします。今まで仕事を得るために苦労した事がないのです。何でも受け入れてやってきましたので、特に夢みたいなものはないです。でも、色々な事に挑戦してみたいと思っています。そこから自分でも気がついていなかった新たな分野を広げたいです。とりあえず何でもやってみたいと……。素敵だなと思ったことをイラストにする、気持ちの良い仕事です。

――経験を積む事で何か変わってきたことはありますか?
 経験に応じて視点が変わってきたのです。今までは街並や建築物の外観を描いていたのが、今では焼き鳥屋のマスターなどの人物を描いていたりする。千住の古い蔵に住んだことで内と外の両方を見ることで視点が広がり、取材などの仕事でも相手の気持ちが分かってくるようになってきました。


イラストを描くための大切な空間
――千住にいることが重要なのですか?
 千住という街は「穏やか」なんですよね。環境は影響が大きいと思います。自宅からアトリエまでの道を歩いているとおじさん、おばさんが気さくに挨拶してくれる。かなり知っている人も増えましたし……。マンションの一室で働いているわけではないので、蔵にいると窓に「隙間」があるんですよ。隙間風が入りますが、道行く人の足音が聞こえて、「あっ、○○さんだ」なんて分かるんですね。自転車が走っている音がしたり、息が詰まらないのです。

――ゆっくりした中での生活ばかりなのですか?
 唯一、短時間で片付けなくてはいけない仕事があります。それは、新聞の仕事で、裁判所において被告人のイラストを描くことなのです。夕刊に掲載するために締切が直ぐで、時としては朝10時開廷で11時には第一版の夕刊の締め切りが来る。その一時間でその雰囲気を伝え、さらに皆さんに顔なじみの人であればその人に似ていなくてはいけない。それは本当に刺激ある仕事です。

――本日はお忙しいところありがとうございました。益々の活躍をお祈りしています。
聞き手  佐藤 良一(建75)
細淵 祐二(機86)

後記
 まず感じたのは非常に自然体であることと、常に色々な所に興味を持っている好奇心旺盛であることです。キーワードは「穏やか」でした。千住という街が彼女を作り、そこで育てられた感性でイラストが作られてゆく。ある意味、「沸いてくる」と表現した方が適切なのかもしれない。一生懸命作る必要はない。そこで生活をしているとその題材に合せてイラストが生まれてくるから、自然にぴったりとフィットしてくるのではないか。そう思えた……。
 リポーターである私に気を使っていただき、取材し易いようにコメントを考えて頂いたり、とても優しい素敵な女性でした。これからも注目です!
細淵 祐二(機86)

 
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